閃光のように 第2話 |
俺は女を連れ、この虐殺の舞台であるシンジュクゲットーを駆け抜けていた。 「おいルルーシュ。お前ギアスを使ったらどうだ?息が切れているし、足が遅くなったぞ?ふらついているじゃないか」 「うっ煩い!黙れ!!」 あんな動きにくそうな拘束衣を着て、走りにくそうなブーツを履いているというのに、女・・・C.C.は平然とした顔で俺と並走していた。 しかもあまり息を切らさずだ。 不老不死だから疲れないだけだろう! 人外と一緒にしないでもらいたい! 「いやいや、不老不死は関係ない。お前の体力が少なすぎるだけだ。どれだけ貧弱なんだお前」 見た目でもやしっ子だとは解ったが、まさかここまでとはな。 なぜか俺の心の声にまで返答をし、疲れて足を止めた俺の傍で仁王立ちした。 ぜえはあぜえはあと、荒い息を吐く俺とは対照的に、C.C.はまだまだ余裕だという顔をしている。 「だからさっさとギアスを使えと言っただろうに。ギアスを使えば楽勝だろ、これぐらい」 「黙れ!俺に・・・俺にまた女になれというのか!!」 俺はあり得ないと、目の前の女を睨みつけ怒鳴った。 「いいじゃないか。強くなるのだから」 私は激昂する男を見つめながらそう言った。 この男はルルーシュ。 マリアンヌの息子で、皇族の中でも飛び抜けたギアス適合値をはじき出した男だ。 まあ、それは遺伝子操作のせいでもあるのだが、それはこの際どうでもいい。 マリアンヌとシャルルから、ルルーシュと契約をして願いをかなえればいいと言われたのでずっと見守って・・・いや、ストーカーじゃないぞ? わ、私はショタコンじゃないからな。 大体世の男どもは全員私より数百歳年下だから全員・・・ごほん。 その話はいいんだ。 陰ながらルルーシュを見守っていたが、戦争で見失いその後死んだと聞いていた。 傷心を抱え、私は中華連邦にわたり、ギアス適応値の高そうな子供と暮らしたりしていたが「実はルルーシュとナナリーが見つかったの」という、既に死んだ私の友人であるマリアンヌから得た情報に従い日本まで来た。 そして日本に降り立ったその日「へい彼女!ピザ無料で食べれる所に案内するぜ!」という気前のいい男に声を掛けられ、着いて行った先で私はクロヴィスに捕獲された。 どうやら以前から私に目を着けていたらしい。 何て狡猾な罠! よくもピザで私を釣ったな! ああ、ピザは断じて悪くない。悪くないぞ。 むしろ餌につかわれたピザが可哀そうだ。 当然美少女である私の抵抗などあって無いような物で、10人ほど病院送りにするのがせいぜいだった。 その後謎のこだわりで作られた、クロヴィスデザインの私専用拘束衣を着せられ、データ収取の日々。それ以外の時間はカプセルの中で過ごしていた。 カプセルから解放された私の目の前に居たのが探していたルルーシュで、私はルルーシュを庇い撃たれはしたが、不老不死は伊達じゃない。即行で蘇生した。 目の前で死んだ私、広がる血液。 周りには数多の死体。 どう考えても恐怖しか生まれない光景だ。 ルルーシュは死の恐怖から生きたいと、ナナリーを残して死ねないと心から願った。 そのタイミングでは力を欲しがるのは当然。 チャンス到来! ものの数秒で蘇生していた私は、ルルーシュに見事ギアスを与えることに成功した。 その後死んだふりをしてこの男がどれだけ力を使いこなせるか傍観するつもり・・・ストーカーじゃないからな。あくまでも王の力を使うにふさわしいかを知るために傍観するつもりだったのだが。 あまりにも面白い展開になってしまい死んだふりを早々に切り上げた。 この男に発現したギアス。 それは、性別を変えるという物だったからだ。 ・・・お前、どんな願望を持ってたんだ? 変身願望か? 女装願望? まさかナナリーになりたいというわけではあるまいな? この場合はマリアンヌか? なんにせよ、この能力は予想外すぎた。 何だこれはと困惑するルルーシュの姿を笑いをこらえながら見ていると、親衛隊の顔色がみるみる変わっていった。 青くではなく、赤くだ。 男たちは下卑た笑みを浮かべながら、欲に飢えた獣の目でルルーシュを見た。 先ほどまで男だと思っていた相手が、良く見ると巨乳美少女で、それも傾国と言っていいレベルだったものだから、男たちは殺す前にという良からぬ思考を巡らせた。 まだ幼さの残るその体を、舐めるように視姦する。 この展開、どこのエロ本だ。 しかも親衛隊の変化に気づいたらしいルルーシュの頭の上には完全に”?”が浮いている。解ってないのかお前、自分がこれから何をされるのか。 お前、男だろう! 思春期だろう! そういうことに興味を持つ歳だろう! こういう展開を読んだり見たり妄想したりしたことぐらい1度や2度あるだろう! ・・・まさか、無いのか? 想像したこともないのか? 色んな意味で大丈夫かお前! ああ、駄目だ駄目だ。 この展開は笑えないから却下だ。 私の心は一瞬で冷え冷えとしたものに変わった。 何より、おい親衛隊! 私にはそんな態度しなかっただろ親衛隊! 何を見ていたんだ! 私も美少女なんだぞ! ああ腹立たしい。 仕方ない、死んだふりを切り上げて助けてやるか。 そう思ったのだが、結果からいえば余計な心配だった。 自身の変化と周りの空気に茫然としていたルルーシュだったが、完全に攻撃姿勢を解いた親衛隊というその好機を見逃す事は無かった。 まるで何かのスイッチが入ったかのように鋭いく凛々しい眼差しで周囲を見渡し、そのしなやかな四肢を流れるように動かした。 一瞬だった。 人間とは思えない動きで、あっという間に親衛隊全員を気絶させたのだ。 碌に体術を学んでいないはずのルルーシュが、ものすごい体捌きで屈強な男たちを蹴り倒す。 その姿には覚えがあった。 閃光のマリアンヌ。 まるで彼女の再来だ。 思わず見惚れてしまったが、全てを倒し終わったその男・・・いや、女は再び自分の体の異変に戸惑い、滑稽なほどうろたえ初めたため、笑いをこらえるのが大変だった。 そりゃまあ思春期の男が、突然スレンダー巨乳美少女になったんだ。 混乱しない方がおかしい。 もしかしたら良からぬ妄想でもしたかもしれないな? 思春期だしな? 笑いをこらえるにもそろそろ限界だと判断し、私はルルーシュに声をかけた。 何より、あまり長時間ギアスを発動し続けるのも問題だった。 顔を青くさせたり赤くさせたりとなかなか忙しい様子のルルーシュに、とりあえずここは危険だと離れることを提案し、念のため倒れている親衛隊の周辺と建物の入り口にはコードでトラップを仕掛けた。 まず、私達がここを離れてすぐに親衛隊を囲むように仕掛けたトラップが発動。 全員にショックイメージを見せるついでに、数時間分の記憶を吹き飛ばす。 恐怖で飛び起き、建物から逃げようと出入口をくぐると、仕掛けておいたトラップが発動、トラウマに塩を塗りたくるイメージに苛まれ、恐怖におののいて混乱してもらうという我ながらえげつない策だ。 どちらも上手くいったようで、あの親衛隊たちはルルーシュの顔も服装も忘れただろう。 その辺を軽く説明しながら走って移動して、現在に至る。 「身体能力が上がる能力で、どうして性別が変わらなければならないんだ!一体どんな嫌がらせだこれは!!」 成程、そう解釈したのかと、私は頷いた。 だが、残念なことにそれは間違いだ。 私は、身に宿ったギアスがどんなものか調べる事が出来るからな! 「残念だが、それは違う。身体能力が上がる力ではなく、あくまでも性別が変わる力のようだ」 だが、私の言葉に信じられないとルルーシュは言った。 まあ、気持ちはわかる。 私もどうして反射神経と運動神経はあるが、体力ミジンコのこの男が、あれだけ動けたのか最初は不思議だったから。 だが、私はある可能性に気がついたのだ! 「お前は元々あれだけの大立ち回りが出来るだけの才能があったという事だ。だがそれは男の時には眠ったままで、女になったことで覚醒した。マリアンヌの血・・・そう、女傑の遺伝子が覚醒したんだよ!」 「なんだと!?」 そんな馬鹿な!! 化物並みの頭脳を持ったルルーシュが、目を見開いて驚くその姿に、思わず優越感を覚えた。 「ってお前!マリアンヌって、母さんの事を知っているのか!」 どうして知ってる! 「しまった!あまりにも楽しくて口が滑った!」 くそ、何て周到な罠だ! 完全に油断していた! 「しかも俺の名前も知っているな!お前は何者だ!」 楽しくてだと?ふざけるな!! 「わ、私はC.C.、ちょっと不老不死なだけのごく普通の魔女だ」 「魔女が普通なわけ無いだろう!!」 洗いざらい吐け!! ブリタニアでマリアンヌと友達だった事、そして日本に来た経緯を白状させられたが、これ以上は話せないなとC.C.は不敵に笑った。 「よし、C.C.、皇帝のギアスの情報をよこせ・・・ピザ2枚でどうだ」 ルルーシュは真剣な表情でそう言った。 「当然Lサイズだろうな」 「ああ」 「私がメニューを選んでいいんだろうな」 「ピザ○ットのピザなら好きなのを選んで構わない」 「なに!ピザ○ットだと!?し、仕方ない、話してやろう」 C.C.曰く悪魔のごとき取引で全てを白状するのは時間の問題だった。 ルルーシュはきっと、強くて優しい理想の母親・マリアンヌに憧れていたと思う。 |